珍しく母がお昼に弁当を作ってくれた。
弁当箱に入った少し冷えたご飯と梅干しは昔から何となく好物だ。
弁当と言ったって、どこへ出かける訳でもなく自宅のアトリエで食べる。
我が家は一階で母がカフェをやってるが、有難いことに毎日満員で僕の分までは回ってはこない。
そんな訳で、外食の多い僕の体を気遣ってかの弁当だなと思った。
最近面白くてハマってるNHKの連続テレビ小説カーネーションを見ながら
毎日使う中平美彦さんのカップにスープを注ぐ。
何て事の無い日常だ。
甘い卵焼きを食べながらふとペットについて考えていた。
いつものことながら、なんで食事の時間にそんなことを考えてしまうのか・・・。
絵描きって生きものは難しい。
一週間前に知人と寿司屋のカウンターでたまたま同席したことがあった。
『あのね・・今日はヒメのお通夜なの・・・・・』
そういって彼女は悲しそうに冷酒をちびりと飲んでいた。
ヒメと言うのは彼女の飼っている、いや・・飼っていた犬の名前だ。
聞けば、自身の老齢化で毎日の犬の散歩がきつく、医者に相談したら
犬を誰かにあげてしまうか処分しなさいと言われたらしい。
あげると言っても老犬、すんなり貰い手があるはずもない。
しばらくの間は、バイトを雇い、出かけるときはペットホテルに預けていたそうだ。
それも数カ月が続いて、気持ち的にも辛くなって結局、12歳の愛犬に動物病院で注射をしてもらい
処分してしまったということだった。
僕は正直絶句した。
テレビではよく見る話だが、一瞬ではあったけど、
ああ彼女は愛犬をコロシテしまったのか・・ そういう目で見てしまった。
もちろん、その人の実情、感情を考えたらそんなことを言えたもんじゃあない。
自分が同じ立場だったらどうしていただろうか?
『そうだったの・・・』
結局慰めの言葉もかけれず、僕は少しぬるくなったビールを
一口飲んで帰ることにした。
我が家にも一匹の犬、一羽のセキセイインコと5匹の金魚がいる。
どれもこれも買ったものはいない。
犬は母の店にバイトに来ていた女性の友人宅で生まれ、貰い主に困っていたのを
母が引き取った。インコは恩師高山先生のお宅からいただいたものだ。
金魚も近所の寿司屋の子供が縁日で買ったものを育てられないと言われ引き取った。
どんなご縁があるにせよ、今は可愛くて仕方のない大切な家族だ。
犬はもう11歳を過ぎた。毎日母と散歩をするだけが楽しみのようで
普段は3階のベランダから海を眺めてる。
インコは最近、歳のせいか餌がのどに詰まるらしく コンコン と咳をする。
何度か病院に連れていくが、目薬のような入れ物から薬を一滴飲ませるしかできない。
咳をするたびに 『大丈夫?大丈夫?』 と声をかけると ピー と返事をして安心させてくれる。
金魚であっても近づくと寄ってくる。餌欲しさの現象だとわかっていても
何となく可愛くて仕方がない。
カウンターで会った彼女もきっとそんな気持ちの毎日だったね。
それなのに・・・・ごめんなさい。 ・・・・そして天国のヒメも分かってあげてくださいね。
スープを飲み干しながら涙が出た。