高校時代、僕は今の自分の原点でもある日本画教室に通っていた。
そこで沢山の方と出会い、今でも大変お世話になっている。
題にもある 三浦のお姉さん ともそこで出会った。
三浦のお姉さんはその当時、もう70歳にはなっていたように思う。
『坂本くーん、あなたこっちに来て一緒にお茶飲もう!』一番年下の僕をいつも気にかけてくれた。
影山さん、山口のおばあちゃん、三浦のお姉さんと僕とでいつも一緒に描いていたし、
展覧会の時も毎回当番を一緒にやった。
教室が終わると、家が近かった三浦さんのお宅にも良くおじゃました。
『お腹すいたでしょ?おにぎり作ってあげる』そう言っていつも俵型のお結びを握ってくれた。
2年前に祖母を亡くした僕にとっては、おばあちゃんのような存在だったように思う。
そんなお姉さんも急な病にかかり、病院での闘病生活をすることになってしまう。
『坂本君、元気にしてる?大丈夫?』 自身が辛いのにもかかわらず、
病院からも僕を心配してよく電話をかけてくれた。僕も時々お見舞いに伺うのが楽しみだった。
その後も病状は悪化し、2年後に亡くなってしまった。
本当に辛い別れだった。
葬儀からしばらくたって、ご兄弟の方から形見に何か貰って欲しいと言われた。
もちろんご遠慮申し上げたが、どうしてもと言われ
いつもお姉さんが座っていた椅子をいただくことにした。
何の変哲もない普通の椅子だったが、いつもお姉さんがゆっくり座っているのが印象的だった。
それから数年間、僕はもちろん、家族や沢山の客様に休息を与えてくれた。
僕の体重増加もあって、その椅子もだんだんと傷んでしまいこの3年ほど倉庫にしまってあったのだが
急に気になって修理に出すことにした。
元の空気を壊さないように、スエードの生地の色も同じものを選んだ。
そしてその思い出の椅子は今日から僕のアトリエの一部となった。
『坂本君、あなた丁度いいじゃない!』
三浦のお姉さんのそんな声が聞こえたような気がした。